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リメンバーミー?総括

この物語のモチーフは母の実家でした。
子供の頃毎年お盆になると親戚一同が集まった海の近くにある古い木造の大きな家が取り壊されると言う話を聞いたのが、この物語を書くきっかけになりました。

土間があり、蔵があり、離れがある、子供にとってはアミューズメントパークのようなものすごい家でした。当時から床が腐り始め、ぼこぼこしている事も子供にとってはたまらない魅力でした。
時は流れ、大人になり、疎遠になってしまったその家が取り壊されると聞いた時、忘れないでと叫ぶその家の声を聞いた気がしたんです。
僕はその家で親戚のきれいなオバサンの真っ白な胸を見て少し大人になり、子供の中の社会性を知り、孤独を知り、数々の遺影に人の歴史を知り、死を知りました。
子ども扱いする大人に苛立ちを覚え、大人たちに大人だと思われたくて痛々しい背伸びをしていた事を思い出します。

そんな家もなくなり、今はなぜかその家のにおいの記憶だけが強烈に残っています。
ネコにあげる煮干の匂いや、蔵や離れのかび臭い湿った木のにおいや、潮の香りの混じった便所のにおいや、近所のスーパー「みどりや」の甘い売れたフルーツにこぼしたラムネのようなにおいや、アサリの味噌汁のにおいが強烈に頭に残っています。

忘れないでと言う叫びが聞こえたそのときから、離れないにおいの記憶。

この物語にはそれをこめました。

俺はここにいると叫べない吾郎は隠れる事でその存在を示そうとしました。
消されてしまった男のあがきが、この物語を混乱に招きます。

なくしてしまった時に気付くのは自分が今ここにいるのだということだけかもしれない。

そんな思いが今はしています。

by biritake | 2006-12-13 22:39  

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