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確かに僕はそこにいた

地図が好きである。

地図に載っている道をたどりながら、空想を膨らませるのが楽しい。

細かければ細かい方がいい。その地図を作り上げる人たちの細かさとか、勤勉さがたまらなく好きだ。

私は転校少年だった。

小学校5年生までの間に4回引越しをした。

関東から関西まで。

その当時は何も考えていなかった。その土地を去る寂しさも、新しい土地に移る不安も、幼かった私にはたいしたことではなかった。
むしろ引っ越す時には毎回お別れ会を開いてくれて、大切なものをプレゼントしてくれたりする。常日頃友達から奪ってやろうとしていた、宇宙戦艦ヤマトの消しゴムをもらえた時は本当に嬉しくて、お別れ会なのにもかかわらず、やけに笑っていたような気がする。
当時流行っていた、一番高い、競技用でもあるブラックヨーヨーをもらった時は、引越し先の人々に自慢してやるとてぐすね引いていたが、引越し先ではもう一切ヨーヨーは流行っていなくて、庭先で一人で遊んでいた事を憶えている。その性能の高さを誰に告げることもできず、いつしかおもちゃ箱の底で時を止めてしまった。

そのおもちゃ箱さえ、度重なる引越しで、どこかになくしてしまった。

今はもう当時の思い出の品は何一つなくなってしまった。

集めていたマンガも何もなくして生きてきたことは、やはり今の自分に少なからず影響を与えている気がする。

今そこにあるものや、繋がっているものは、とてもはかなくもろく、いつかなくなってしまうものなのだと激しく気付いてしまう。去っていくもの、変わり行くものに対して表向き冷静でいられるというこの性格はそんな暮らしが影響しているのかもしれない。

想い出を捨てて生きていく寂しさ、恐ろしさから、僕は劇団を続けている。

遠い昔、意味もなく愛していたガラクタのようなおもちゃが1つでも手元にあったら、心の奥にある氷のような部分がもうちょっと溶けて、めんどくさい男になれたかもしれない。

何も考えず走り回っていた、それぞれの土地を、地図を広げてたどってみる。別れる事など思いもせずに、走り回った公園や、駄菓子屋や、どぶ川が改めて目の前によみがえる。地図の形は変わり、土地の名前も変わっているが、あのときの気持ちがくっきりよみがえる。

転校少年だった事も悪くないなと思える瞬間だ。

地図は、そんな心を形作ってくれる。
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by biritake | 2008-02-07 21:56